雛壇アーキテクチャー

雛壇つくるぜ

いだてんが視聴率で苦戦しているらしい

■「いだてん」を録画で見ている

土曜昼の再放送版を録画したものだが「いだてん」をほぼ毎週楽しんで見ている。なぜ土曜の再放送版を録画するかといえば、理由は2つある。

一つは本放送の日曜の20時~21時の枠は日テレのイッテQを見ているからだ。笑える番組であるイッテQは、翌日から憂鬱な月曜を迎えるにあたり我々家族のメンタル面での健康をギリギリのところで支えてくれているありがたい番組なのだ。

もう一つには、拙宅の録画機器の問題で、録画している番組にチャンネルを合わせておかなければ録画ができない、という理由がある。この録画機器の性質により本放送のタイミングで「いだてん」を見ようとすれば、日曜の夜という1週間で最もシビアな時間帯をエピソードの内容によってはシリアスに過ごさなければならず、家族のメンタルに多少の揺さぶりがかかる可能性は全くないとはいえないだろう。

そういった理由で「いだてん」は録画視聴(しかも再放送版の録画)なのだが、視聴率でかなりの苦戦を強いられているらしい。(https://www.iza.ne.jp/kiji/entertainments/news/191015/ent19101519420023-n1.html

ちなみに、上記で「ほぼ毎週」と書いたのは、ニュース特番などで再放送の時間帯がずれて録画出来ていない場合や、一気に2話見るときもあったりする事情を踏まえている。

 

■一抹の罪悪感

上にも書いたとおり、拙宅では「いだてん」をほぼ毎回楽しんでいるのだが、世間的には視聴率がよろしくなく、一部のメディアにはこの番組を批判するものもあるようだ。

言うまでもないが、視聴率というのはテレビ番組のユーザー満足度を定量的に図るために伝統的に用いられてきたKPIで、録画視聴は視聴率ではカウントされない。

つまり、見る都度楽しんでいるのに拙宅の視聴は「いだてん」のKPIに一切寄与していないのである。この状況に、一視聴者としてそれなりの罪悪感が胸に刺さってしまったので、「いだてん」の素晴らしい点を以下に書いて罪悪感の払拭につなげるとともに「いだてん」への微力な応援としたい。

 

■推し俳優の出演

まず、「いだてん」を視聴し始めたきっかけだが、番組開始前の番宣で役所広司さんの出演を知って「いだてん」視聴を決めた。役所広司さんは私の最推し俳優だ。最初に意識して見始めたのは「どら平太」で、そのときから良い俳優さんだな~と感じていた。しばらくはあまりテレビや映画を見ない時期が続いたが、「陸王」で改めてお芝居をみてどハマりしてしまった。一時期、ドラマ「陸王」の公式Twitterアカウントがアップしていた画像の役所広司さん部分のみをトリミングして携帯の待ち受けにしていたほどである。なお、私は30代半ばの男性である。

 

陸王」の放送が終わってから癒えることのない「陸王」ロスに対処するためにパラビに登録していたこともあった。そんなときに「いだてん」の番宣を見ると、役所広司さんが出演するというではないか。しかも重要な役どころである嘉納治五郎役だ。見るしかない。こうして視聴が開始された。

 

■キャラクターが立っている

毎回のように出てくる(出てきていた)嘉納治五郎はもちろん、他のキャラクターも非常に良い。主人公である金栗四三田畑政治をはじめとして、主要キャラクターは強い個性とポジティブさを伴って描かれている。

 

金栗四三は、第1部(ストックホルム五輪~パリ五輪、関東大震災頃まで)の主人公だ。素朴な人柄だが、走ることに夢中になって長距離走を極め、マラソンの世界記録まで出すような人物である。走ることに夢中になるあまり故郷の熊本にもほぼ帰らず、婿養子になっても子どもが生まれても東京で走ってばかりなのだから当時としてはかなり変わった方だったといえるのではないだろうか。劇中でもそのあたりが触れられているが、家族が金栗四三のマラソンに対する想いを理解して支えているドラマがちゃんと描かれていた。

ストックホルム五輪の頃は、日本が明治を迎えたばかりの頃で、スポーツに対しては「お遊び」という認識が一般的だった。そのため、五輪に出る、ということの価値も理解されず開催地までの渡航費など一切の費用は私費で賄われていた。

そういった「無」の時代にあって金栗四三は、日本のスポーツで初めて世界の舞台への一歩を踏み込む大きな役割を果たしたのである。

 

上記のように素朴で実直な人柄として描かれているが、劇中では嘉納治五郎や美川くんとのやり取りの中でその素朴さがコミカルに浮き上がっている。

 

田畑政治は、第2部(アムステルダム五輪以降)の主人公である。せっかちさが全面に出たキャラで、実際のご本人を知っている方々からすると「化けて出たかと思った」と評されるほどの肉薄ぶりらしい。私個人としては、パリ五輪の報告会にて嘉納治五郎を前にして「なーにが『逆らわずして勝つ』だ、逆らってでも勝て!バカ野郎め!」と言って嘉納治五郎老害扱いしたセリフの勢いとテンポの良さに爆笑してしまった。ロサンゼルス五輪での水泳の活躍を後押しした人物に相応しい勢いのいいキャラクターが非常に好印象だ。拙宅の会話では劇中の田畑の口癖である「●●じゃんねー!」が語尾につくくらい流行っている。「え?○○が良かった? 違う!そう!違う!」などもそうだ。田畑政治が出てきてからというもの、「いだてん」の話のテンポがよくなり、雰囲気も明るくなった。

 

■ドラマも良い

キャラクターも適度にコミカルに描写されているが、関東大震災日中戦争から続く太平洋戦争など日本人にとって辛い歴史上の事実もストーリーの中シリアスに描かれており、それぞれのキャラクターがそういった困難の中で苦しむ姿もしっかりと描写される。

 

第1部の終盤に起こった関東大震災では東京の街がボロボロになり、主要人物の一人であるシマちゃんも犠牲になる。大震災では当時流れたデマなども出していかに状況が混乱していたか、それゆえに会いたい人にも会えずどれだけの人が悲しみを味わったか、などがセリフによる野暮な説明でなく、言葉は最低限に抑えたうえで映像でしっかりと表現されていたように思う。

 

第2部はまだ視聴途中だが、ベルリン五輪のときから田畑の言動にも躊躇いが窺えるようになるほど戦争の暗雲がどんどん色濃くなり、日本国内でも5.15事件や2.26事件が起き、日中戦争も始まってしまう。さらには東京五輪の招致にも支障が出始める中、日本スポーツ界を引っ張ってきた嘉納治五郎が亡くなってしまう。そこから日本の敗戦に至るまで暗雲は濃くなる一方だが、そんな中でも、これからは頑張って這い上がっていくだけ、という39話終盤の孝蔵のセリフに象徴されるように暗い情勢の中でもそれぞれが厳しい状況を乗り越えていく様が描かれるのだろうと予測している。

 

なお、39話は金栗四三の弟子である小松勝の身に悲劇が起こるが、その悲劇に至るまでに孝蔵は「富久」を講じる。噺を披露するにあたり、久蔵が走る場面を小松勝が指摘する長距離走にも耐えられる呼吸で表現したり、走る場所を変えるなどして、小松勝の心を強く揺さぶるようにアレンジしている。劇中ではこれが引き金となって小松勝に悲劇が起こってしまうのだが、従軍しつつも走りたいという気持ちを持ち続けていた小松勝を走らずにはいられない状態にし、番組開始当初からの五りんの父親が残したという「志ん生の富久は絶品」の絵葉書の主が小松勝だったことが明らかとなる伏線の回収がされる。

 

これも心揺さぶる映像での伏線回収となっており、映像作品として私は素晴らしかったと思った。

 

視聴率は必ずしも作品の良さを定量的に表現できる指標ではないし、ある意味でこれまでのNHK大河ドラマとは作風が大きく違うため、往年の大河ファンにとっては違和感などあるのかもしれないが、映像作品としてみて非常にいいドラマだと思っているので、弱小個人のブログだがエゴサーチの限りを尽くした製作陣の方に届いてほしいと思い、ここに感想を残しておきたい。

 

なお、視聴は録画が続くと思う。